寺町をあるく1
本郷さくら霊園周辺の旅

文:つつみ みき

今回訪れた「本郷さくら霊園」は前回訪れた東大赤門前霊園を本郷通り沿いに、もうすこし足を北にのばしたところに位置します。最寄りの駅は、南北線は「東大前」駅か、「本駒込」駅でしょうか。両駅のちょうど間くらいに位置しています。この霊園は、桜が美しいことで知られる霊園です。今回はそんな見頃の時期を迎えた霊園と、その周辺を旅します。

 

寺町をあるく。

 

今回わたしが利用した駅ですが、南北線は東大前駅、本郷通りに面した駅は、南に行けば前回訪れた東京大学があり、前回降り立った「本郷三丁目駅」にたどり着きます。
東京都内は、こうして駅と駅間が歩いても移動できるので、とても便利ですね。歩くことも、電車に乗ることも選択肢としてあげられるのは、都内の特権です。わたしが歳をとっておばあさんになって、こういった都会の便利さを覚えてしまうと離れられなくなるでしょう。
そして、なによりもわたしが田舎に住んでいた時は、都内はただただ、せわしないだけのような印象を持っていたのに、ここの街を見ると情緒あふれる町並みや温もりを感じるのです。都内ですとわたしが住んでいた茨城の地元の感覚で物件を探すとずいぶんとやはり値が張ってしまうので、なかなか住む場所を選びますがそれでもやはり代え難い良さのある雰囲気のある街が多いですね。

さて、今回訪れた街もそんなあたたかい町です。 前回は東京大学の南側あたりを歩きましたが、今回の訪れた北側はまた面白い街でした。印象としてはお寺と学校の多い街です。

現在の皇居の位置する場所が旧江戸城だったことに由来するのでしょう、江戸城を築城した太田道灌のご子息である太田摂津守の敷地であったという名残を見ることができました。千駄木ふれあいの杜という小さな公園ほどのスペースですが住宅街の中に突如として現れたそこにはいまも自然がきちんと根を生やし生きていました。

そして、寺町とよぶにはそれでもまだ浅草方面などよりは規模が小さいのかもしませんが、三歩あるけば寺が見つかるというような場所もあり、むかしこのあたりが武家屋敷が広がっていたところに、固まって寺町が点在していたということなども想像できます。昔の江戸城下町の風景をいまだ残して今も息をしているようでとても興味深い街です。

お寺マップ

道の途中の石材店さんの壁に貼ってあったお寺マップ。
この一帯の寺の多さを物語っている。

元文年間(1736〜1741)にこのあたりでは町屋が開かれていました。町屋というのは、商人や職人の商いの場を兼ねた家をさします。
よく家の形で「町屋造り」などということばを耳にしますがこれは、細長い長方形の作りの家の形であって、そういった細長い家家が肩をならべ道を形成させている風景など歴史を残した街などいけばよく目にします。
町並みを意識した場合の町屋は横に長いのに対して、間口の広さで税金を払うようになりどんどん間口の狭い町家が増えた、なんていう話など以前関西方面に訪れたときに聞いたことがあります。

町内向側には瑞泰寺・清林寺・栄松院・高林寺があったので四軒寺町(しけんてらまち)と呼ばれていたそうです。

瑞泰寺

瑞泰寺

栄松院

栄松院

また今回向かう浄心寺とその隣の長元寺のある本郷通りのまっすぐにのびる細長い道はその昔「ウナギナワテ」と呼ばれていたそうです。縄手というのは縄のこともいいますが、細い道・長い道のことをいいます。
一見、この「ウナギナワテ」の謂れ、このあたりのどこかでうなぎでも食べていたのかしらと想像していたのですが、別の掲示板を道中、見つけたところ、江戸時代に旧岩槻海道の道筋にあたるこのあたりが植木屋が多かったために「小苗木縄手(おなえぎなわて)」がかわって「うなぎ縄手」と呼ばれていたそうです。
そういえば、庭の広い寺もあったり、このあたりに武家屋敷も多かったことから植木屋が多いのもなんだか頷けます。

また、明治時代には、このあたり浅霞町の一部を合わせ蓬莱町の地名だったそうです。なんでも、中国の伝説にある東方の海中にあって仙人が住んでいるという蓬莱山の名前にあやかって将来の繁栄を願ってつけられたとか。

お寺の多い街らしい願いの込められた街ですね。

不許葷酒入山門

さて、お寺の町だから見れる光景なのでしょうか。
大林寺というお寺の隣にあったおもしろい石柱をみつけました。この石柱、なんてかいてあるかわかりますか。

不許葷酒入山門
クンシュサンモンニイルヲユルサズ とよむそうです。

許さず、というところはわかりそうですが、その下は“軍”?でしょうか。お酒という文字もありますね。どういう意味なんでしょう。

大乗仏教や道教では肉・魚・鳥といった動物性の食べ物が禁じられているそうなのですが葷(くん)というネギや、ニラ、ニンニクなどの匂いの強い食べ物も禁止だったそうです。お酒だったり、匂いの強い食べ物は修行には相応しくないので、山門に入るのを許しませんよ!という意味だそうです。修行の厳格さがうかがえますね。

さて、食べ物につながる話でもうひとつ。
東大前駅のそばにある正行寺には「とうがらし地蔵」という咳止め地蔵がいます。元禄15年、覚宝院というお坊さんが人々の諸願成就と、咳止めの成就を願って座禅のお地蔵さんを刻んで安置したのがこのとうがらし地蔵。
なんでもこの覚宝院、とうがらし酒がお好きだったそうで。人々もとうがらしをお供えして諸願成就を願ってきたそうです。
大林寺の厳格な印象とはずいぶん違いますが、とても親しみのあるユニークなお話です。

 

さて、ウナギナワテのこの通り、もちろん東京大学へもすぐにたどり着きますが、いくつか学校があります。今回利用した東大前駅からは文京学院大学が直結もしていて、なんだかわたしにとっては“文京学院大前駅”みたいな印象でしたが新しくて、きれいな校舎の正面には桜が植えられ、初々しい学生さんたちが、ワクワクしているのが見えました。4月のオリエンテーションでしょうか。これからここで始まる未知に夢や希望を持っているのがうかがえて、見ているわたしも新鮮な気持ちになりました。
学園のある町というのはとても穏やかなものです。

 

 

塩コーヒーと哲学。

 

文京学院大の学校のそばに、”K”という名前の喫茶店を見つけました。
「一杯のコーヒーは自分のための哲学であり、芸術であり宗教である 寺田寅彦  熟成3年Kのオールドコーヒー ¥300」というなんとも通好みな看板が立てかけてあり、パスタとコーヒーと世界のビールのお店です。「クリーム明太パスタ バジリコパスタ 700円」と、書かれた文字を目指してお腹を空かせて小道に吸い込まれるというのは、どうやら私だけではなかったようです。店内に入るとたちまちお客さんで溢れていました。
木のボウルに盛られたパスタと、おなじくらいの大きな白いお皿に入ったサラダ。なんだか懐かしい家庭の味です。おいしかったです。なんだか「憩いの場」そんなことばがとても似合うお店です。

店内は、名曲CDとカセットのコレクションと、いろいろな国のビールが飾られて、壁には店主が思わず自慢してしまった著名人の残すサインや言葉の数々が。
ちょっと入り口の近くに目をやると

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オールドコーヒー 
熟成3年 ¥300 
最高の美味しいコーヒーです。
Kは創業以来33年間
¥300という値段を守っています。

塩コーヒー ¥300
コーヒーの発祥地エチオピアの飲み方です。
砂糖ではなく、塩を入れて飲みます。
各国の塩をそろえております。

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こんな風に手書きされた大きなポップが。 もうこれは、いよいよ気になります。 注文をすると温かみのある陶器のコーヒーのマグと、大きなトレイ二つ、十数種類の塩が出されました。“コーヒーを味わったら、お好みでお好きな塩をいれてみてください“と言われ、まずは何もいれないオールドコーヒーを味わいます。最近コーヒーというと、なにかと香りや渋み、酸味、カフェインが強いものが多いですが、この珈琲はとても口当たりが良く、飲んで奥の方に上品に香るものでした。 ずっと飲んでいたくなる味わいです。 さて、この味わいに塩をプラスしたらどんな味になるんだろう。それはとても勇気のいる決断でしたが、出された塩が想像していた食卓塩ととてもかけ離れ美しさに、すこしつられてしまったのかもしれません。宝石の原石みたいな塩や、粒の粗い塩、この珈琲にすこしこのスパイスを入れたらどうなるんだろうという気持ちに駆り立てられました。 大きな粒の塩は温かい珈琲のなかでゆっくりと溶け、はじめはほんとうに口のなかでやわらかく香るスパイスでした。珈琲の本拠地エチオピアでは珈琲に塩を入れることは当たり前なのだそうです。珈琲の道は奥深い。でも、とても幸せな時間がながれます。

塩コーヒー

このお店には、近くで働いている方や住んでいるひとたちが来店しているようでした。アットホームなこのお店に足が向いてしまうのがなんとなくわかる気がします。

お墓参りと結ぶこの時間にスパゲッティとオールドコーヒーとともに偲ぶ時をすごす。思い出すこと、思うことがこんなかたちで巡り逢うこと、そんな時間もなんだかいいものです。
お墓参りは、年に4回でないといけないわけではないのです。「たまたま近くに寄ったから」という理由でも、何度訪れてもいいのです。
そうやって大切な方との向き合う時間になれることが、なにより大切なことなのです。そんな雰囲気にぴったりとよりそえるお店でした。寺田寅彦さん、わたしにとっての「一杯のコーヒー」は、お墓参りをするための道中のひとときであり、思い合う語らいの時間でした。

 

 

\今回出会った街キーワード/

千駄木ふれあいの杜

千駄木ふれあいの杜

東京都文京区千駄木1-11

住宅街に突如として現れた自然はかつての太田摂津守の敷地を保護した杜として残されている。屋敷の近くには森鴎外らの文化人が住まいをかまえ、小説にも周辺地域の風景が描かれているとか。市街化が進み残されているのはここのみとなった。

浄心寺 本郷さくら霊園

浄心寺 本郷さくら霊園

〒113-0023 東京都文京区向丘2丁目17-4

宗旨宗派は問いません。法事・法要も自由なスタイルで行えます。大きな布袋様がにこにことした浄心寺のとなりに本郷さくら霊園が構えます。どなたでも入れる永代供養のお墓を用意していることも特徴です。

大林寺

大林寺

東京都文京区向丘2-27-11

不許葷酒入山門の石柱のあったお寺。

正行寺

正行寺

東京都文京区向丘1-13-6

とうがらし地蔵のいるお寺。咳止め効果があるとか・・?

K

K(ケイ)

東京都文京区向丘2-8-4

オールドコーヒーとパスタと世界のビールが楽しめる喫茶店。アットホームな雰囲気のお店。エチオピア由来の塩コーヒーも楽しめる。

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